ヘルペス後遺症による神経痛のボツリヌス治療の概要と学術的根拠

ヘルペスのイメージ写真

帯状疱疹に伴う神経痛は、かつてはかなりやっかいな後遺症でした。抗ウイルス剤の発売後は、急性期にそれらを経口服用にせよ塗布にせよ使用することによって大幅に改善しました。しかしそれでもなお10~20% は神経痛を残存させると言われています。

神経痛の残存部位はさまざまですが、面積の広さと痛みの程度には一定の関係はありません。急性期の神経分布に一致した領域に発疹が存在する時期は、後遺症とは言えないのでボツリヌス治療の対象ではありません。

発疹が消退した後でも障害を受けた末梢神経は0.3~1mmの速度で再生するので、なお痛みは軽減する可能性が期待できるのでメコバラミンなどで観察するべきです。

半年~1年を経過して痛みが残存するようなら、すでに回復期は過ぎたと考えられますから、後遺症としての神経痛が固定化したと考えてよい。

ボツリヌスの投与は、1~1.5cm間隔で細かく投与します1)。注射時の角度は浅くして皮下組織に注入する必要があります。

効果は、筆者の経験では有効例と非有効例は半々です。有効例の場合には約1週間後には患者が有効性を自覚することができます。有効の程度は、30~40%くらい軽減するのが平均的です。とくにチクチクした鋭い感覚が減少することが患者に安心感を与えることになります。3~4カ月で効果が低下するので反復投与が必要となります。残念ながら完全に消失する例はないように思われます。

ところで、ボツリヌス剤の作用部位として感覚神経も挙げられています、このような治療をした場合には、痛みが軽減したとしても、投与部位周辺の通常の触覚、痛覚などは正常に保たれたままです。

ですから正常の感覚に不自由感を与えることはありません。

〔文献〕
1) Liu HT, Tsai SK, Kao MC et al.:Btulinum toxin A relieves n europathic
pain in a case of post-herpetic neuralgia. Pain Med 2006;7:789-791

この記事を書いた人

寺本 純

1950年生まれ、名古屋大学医学部卒。しびれ、めまい、頭痛など外来の神経疾患を得意とする。著書『臨床頭痛学』(診断と治療社)は国内初の医学専門書で頭痛専門医の必携書となっている。片頭痛、郡発頭痛、肩こりの目立つ緊張型頭痛へのボツリヌス治療を国内最初に実施し、その治療成果を多くの学会、文献で報告している。さらにボツリヌスが末梢神経に作用する点に着目し、肩関節周囲炎や膝関節炎、花粉症にも国内で初めて応用し、優れた成績を医学報告している。現在は名古屋の寺本神経内科でボツリヌス治療を行っている。