強烈な肩こりのボツリヌス治療の概要と学術的根拠

肩こりだけでなく頭痛もある場合は3)で紹介した緊張型頭痛ということになりますが、強い肩こりはあるが頭痛はない、という人はかなり多いはずです。

肩こりにはマッサージ、柔軟運動などのほか、医療機関では、筋弛緩薬、湿布剤などの投与がされていますが、一時的な効果しか得られないのが実情です。

これにボトックス治療を実施すると、数カ月にわたって効果が見られます。効果が落ちてきたら再投与すればよいのですが、たいていは再投与の間隔が延びていき、やがて肩こりはあったとしてもあえてボトックスの必要性はなくなる人が大多数となります。

肩こりは、強烈な筋肉疲労であると思われていますが、じつは違います。簡単な見分け方を紹介します。それは、夜寝ているときに、肩こりが気になって目を覚ますということがない、という点です。もし重労働やスポーツの後で生じる純粋の疲労性筋痛なら、寝返りをしたときに、一瞬目を覚まし、痛いことを自覚します。同じ筋肉の痛みでも別物なのです。要するに肩こりは純粋の筋肉疲労でなく、脳から余計な収縮命令が出ているから起きる現象なのです。厳密な用語で言えば、頸部ジストニアという現象なのです。この現象は睡眠中には止まるのです。

肩こりを起こす筋肉は、僧帽筋と思いがちですが、必ずしもそうではなく、首の他の筋肉が『主犯』になっていることもあります。

肩こりのボツリヌス治療は、一部の美容系の科でも扱っていますが、なかなか広がりません。この根拠として、いろいろな筋肉で生じうる現象ですから、神経学の知識がないとなかなか対応しづらいという点があるからです。

〔文献〕
1)高雄由美子, 村川和重、森山萬秀ほか: 慢性肩部筋原性疼痛( 重度の肩こり) 患者に対するボツリヌス毒素療法の有効性.日本ペインクリニック学会誌 2010;1:11-16.

この記事を書いた人

寺本 純

1950年生まれ、名古屋大学医学部卒。しびれ、めまい、頭痛など外来の神経疾患を得意とする。著書『臨床頭痛学』(診断と治療社)は国内初の医学専門書で頭痛専門医の必携書となっている。片頭痛、郡発頭痛、肩こりの目立つ緊張型頭痛へのボツリヌス治療を国内最初に実施し、その治療成果を多くの学会、文献で報告している。さらにボツリヌスが末梢神経に作用する点に着目し、肩関節周囲炎や膝関節炎、花粉症にも国内で初めて応用し、優れた成績を医学報告している。現在は名古屋の寺本神経内科でボツリヌス治療を行っている。