手掌多汗症のボツリヌス治療の概要と学術的根拠

手掌多汗症のイメージ写真

腋窩多汗症に対しては保険にて治療できることをこちらで述べましたが他の部位の多汗症では、保険では受けることができません。

多汗症の中でも、患者の苦痛がもっとも多いのは手掌多汗症1)です。とくに事務作業などに従事する患者にとっては、取り扱う書類などを濡らしてしまうことから、就業上の支障にもなるので治療を求めることが多いのです。腋窩のように市販の制汗剤で対応するというわけにもいきません。精神緊張との関連も強いので、心配になればなるほど症状を強くなるという悪循環に陥りがちです。

結論から先に述べるならば、この疾患に対するボツリヌス治療1)は、ほとんどの患者で有用です。筆者は片側25単位(両側で50単位)細かく施注している。指は1関節間に1カ所は必要で、手掌には1~1.5cm間隔で細かく投与しています。欧米ではその倍量を使用するが、筆者の経験ではこの量で十分のように思っています。

もっとも辛いのは投与時の痛みである。保冷剤で冷やす、駆血する、局所麻酔の塗り薬を用いるなどの方法を加えますが、効果は十分とは言えず、片側につき5分くらいずつ我慢してもらう必要があります。

大多数が2~3日後より有効性を自覚します。有効期間は長く、半年以上です。しかし再度投与を求める患者は意外と少数です。それは痛いのが嫌だからということではなく、治療する方法があることを知って、精神的緊張が高まらなくなるのではないか、と考えられます。

有効率も高く、有効期間も長く、頻回投与にもなりにくいので、この症状に悩む患者には、投与時のみ少し我慢してもらうとしても、是非実施してあげたいと考えています。

〔文献〕
1) Saadia D, Voustianiouk A, Wang AK et al.:Botulinum toxin type A in primary palmar hyperhidrosis randomized, single-blind, two-dose study. Neurology;57:20955 ・2099 2001

この記事を書いた人

寺本 純

1950年生まれ、名古屋大学医学部卒。しびれ、めまい、頭痛など外来の神経疾患を得意とする。著書『臨床頭痛学』(診断と治療社)は国内初の医学専門書で頭痛専門医の必携書となっている。片頭痛、郡発頭痛、肩こりの目立つ緊張型頭痛へのボツリヌス治療を国内最初に実施し、その治療成果を多くの学会、文献で報告している。さらにボツリヌスが末梢神経に作用する点に着目し、肩関節周囲炎や膝関節炎、花粉症にも国内で初めて応用し、優れた成績を医学報告している。現在は名古屋の寺本神経内科でボツリヌス治療を行っている。