手術後の傷の痛みのボツリヌス治療の概要と学術的根拠

手術後の傷の痛みのイメージ写真

手術後の傷痕の痛みが続くことがあります。内視鏡手術のような小さな傷でも同様です。下着が少しこすれただけでも痛いということでよく認識されます。手術後若干の痛みが残るのは当然ですが、けっこうな痛みが長く残る場合が、ある報告では5~10%くらいあると指摘1)しています。たいていは皮膚が癒着したあとのケロイドの部分が痛みます。

一見、こちらこちらで紹介したようなCRPSに似ていますが、他の症状は現れませんので、詳細な成因論的には共通性があるかもしれませんが、別に考えたほうがよいでしょう。

このような傷に対しては、痛い部分に少しずつボツリヌスを細かく分注しておくと痛みが大幅に和らぎます。3カ月くらいすると効果が落ちてくるので再投与します。やがてケロイドが収縮していくと痛みもほぼ出なくなります。

〔文献〕
松岡豊ほか:術後痛の基礎研究 ペインクリニック 40:25-34 2019

この記事を書いた人

寺本 純

1950年生まれ、名古屋大学医学部卒。しびれ、めまい、頭痛など外来の神経疾患を得意とする。著書『臨床頭痛学』(診断と治療社)は国内初の医学専門書で頭痛専門医の必携書となっている。片頭痛、郡発頭痛、肩こりの目立つ緊張型頭痛へのボツリヌス治療を国内最初に実施し、その治療成果を多くの学会、文献で報告している。さらにボツリヌスが末梢神経に作用する点に着目し、肩関節周囲炎や膝関節炎、花粉症にも国内で初めて応用し、優れた成績を医学報告している。現在は名古屋の寺本神経内科でボツリヌス治療を行っている。