治療によって生じたいくつかの課題

頭痛のイメージ画像

トリプタンは、エルゴタミンに比較して有効率は高い反面、血中濃度の低下が早いことから、薬が切れた時に再度頭痛が現れる(再発性頭痛あるいは反跳性頭痛)ことが多いことが欧米での発売前から分かっていました。

この弱点が欧米では発売直後から顕著に現れました。次々と多用し、かつ徐々に効果が現れにくい患者が続出することになりました。イタリアではこのことが問題となり、急激に売り上げが減ってしまうという事実が露呈したのです。しかしこれらの情報は製薬会社からは表向きには提示されることはありませんでした。しかし欧米の頭痛診療医には衝撃的なことであり、この対策が急がれることになったのです。

折しも、アメリカの美容皮膚科医のビンダーが、女優さんのしわのばしにボツリヌス剤を投与した結果、たまたま片頭痛をもっていたその女優さんが片頭痛も改善したことを医師に申告しました。しわのばしで世間によく知られているボトックスはボツリヌス剤の商品名です。

ビンダーは多数例での集計結果を1998年に報告し、それを契機に欧米に広く知られることになり、随所でボツリヌス治療が実施されました。結果は投与量、投与法などにばらつきがありましたが、全体としは有効性が示され、製薬会社を中心とした開発作業が開始されることになりました。

2004年に国際頭痛学会が改訂した診断基準を発行し、その中の薬物乱用頭痛の項目の中で、トリプタンは10回/ 月以上の使用によって生じる可能性があり、この薬剤を中止して2 カ月後には1カ月あたりの頭痛の回数は元に戻ることを示しました。同時に、1988年の前回の基準に述べられていた薬物過量による頭痛として、鎮痛薬ならアスピリン換算50g(通常の鎮痛薬換算でだいたい毎日2錠)、エルゴタミンでは、毎日2錠とされていたのが、2003年には鎮痛薬は15日/ 月以上、エルゴタミンは10日/ 月以上が乱用頭痛であるとの基準に変わりました。鎮痛薬とエンゴタミンは極端に制限されたということです。これはあくまでトリプタンの価値を下げないための仕業としか考えられず、欧米の頭痛学者もかなりトリプタンメーカーに強く影響されていたかを示しています。

また同時に、薬物乱用頭痛に陥ると予防薬は効かないことも明言されました。

この記事を書いた人

寺本 純

1950年生まれ、名古屋大学医学部卒。しびれ、めまい、頭痛など外来の神経疾患を得意とする。著書『臨床頭痛学』(診断と治療社)は国内初の医学専門書で頭痛専門医の必携書となっている。片頭痛、郡発頭痛、肩こりの目立つ緊張型頭痛へのボツリヌス治療を国内最初に実施し、その治療成果を多くの学会、文献で報告している。さらにボツリヌスが末梢神経に作用する点に着目し、肩関節周囲炎や膝関節炎、花粉症にも国内で初めて応用し、優れた成績を医学報告している。現在は名古屋の寺本神経内科でボツリヌス治療を行っている。