肩こりを伴う緊張型頭痛のボツリヌス治療の概要と学術的根拠

肩こりがあり、頭も痛かったり、重かったりする頭痛を緊張型頭痛と呼びます。片頭痛のような脈打つ感じはしません。

さて、この緊張型頭痛は各国でとらえ方がいくらか異なります。日本では上記したように肩こりに関連する頭痛と考えられていますが、欧州では精神・心理的背景のある頭痛に重きが置かれています。アメリカでは、慢性連日性頭痛と総称され、この中には緊張型頭痛もありますが、慢性片頭痛がさらに進行して片頭痛の様相がわからなくなって緊張型頭痛と区別がつかなくなった状態のものも含めています。

こういった背景からボトックスの成績もいくつか報告されていますが、単純に比較はしづらい点もあります。

初めてボツリヌスが片頭痛に有効であることを報告した美容皮膚科医の Binder らの報告に対して、頭痛診療医である Carrther ら1)は批判的に検証し、有効とされた例のうち 9例は片頭痛ではなく緊張型頭痛であったと結論づけました。しかしこのことは緊張型頭痛にも有効であったことを逆に証明する結果になりました。

前述したように、日本では肩こりに注目が集まりますが、欧米では医師と患者がともに理解できる『肩こり』にあたる共通用語がありませんので緊張型頭痛は言語・文化の違いが明確に示される頭痛であると言えます。

もう少し厳密に考えると首や肩の筋肉の痛みが本当に直接的に頭痛の発現に関与するのかどうかという点については、医学的に検討の余地があるのですが、少なくともかなりの頻度でボツリヌス治療で軽減させることができます2)。しかし医学的検討の余地がある根拠として肩こりは改善されたのに頭痛は改善しないというケースがときどき存在するのは事実です。これは治療後にしか分からないことですから、こういった頭痛がある場合には、一度は治療を試みてみる価値はあります。

〔文献〕
1) Carrther A, Langtry JA, Crruther J et al.; Improvement of tension-type
headache when treating wrincles with botulinum toxin type A injections.
Headache 1999; 39:662-665.
2)寺本純: 慢性緊張型頭痛と頭頸部ジストニー 第3回神経・筋疾患に関するボツリヌス療法懇話会記録集 東京 ライフサイエンス 2007 15-17

この記事を書いた人

寺本 純

1950年生まれ、名古屋大学医学部卒。しびれ、めまい、頭痛など外来の神経疾患を得意とする。著書『臨床頭痛学』(診断と治療社)は国内初の医学専門書で頭痛専門医の必携書となっている。片頭痛、郡発頭痛、肩こりの目立つ緊張型頭痛へのボツリヌス治療を国内最初に実施し、その治療成果を多くの学会、文献で報告している。さらにボツリヌスが末梢神経に作用する点に着目し、肩関節周囲炎や膝関節炎、花粉症にも国内で初めて応用し、優れた成績を医学報告している。現在は名古屋の寺本神経内科でボツリヌス治療を行っている。