腰痛のボツリヌス治療の概要と学術的根拠

腰痛も日本人では国民病と呼ばれる症状のひとつです。単に腰痛といっても原因にはさまざまなものがあります。この中で最も多いのは、筋・筋膜性腰痛あるいは筋膜性腰痛と呼ばれるものです。骨などの異常がMRIなどで捕らえられる腰痛椎間板症、変形性脊椎症、脊柱管狭窄症以外で、特に写真などで病変が捕らえられない場合にも多くみられる痛です。骨の異常などは悪化要因として関係している可能性はありますが、基本的には別物と考えられています。この筋・筋膜性腰痛は腰痛の中で、最多のものです。

自己診断は比較的簡単です。腰の部分で脊椎の両側の筋肉を押さえてみて筋肉性の痛みがあるかどうか確認してみれば分かります。脊椎のある中央部を押さえたり、叩いたりしても痛みはありません。もしあれば骨や軟骨などの異常を考えてください。

背中を伸ばす多くの筋肉が束を成して傍脊椎筋群を形成しており、その筋肉の痛みなのです。原因のひとつとしてそれら筋群の異常収縮が関係しているのではないか、とする説です。実際にそれらの筋肉にボトックスを投与すると有効です。実地上の問題点として多くの筋が束になっているところから、ていねいに部位を探しながら注射する必要があるのですが、初めて治療をするときには、患者さんも一層細かく観察することに慣れていませんので、うまくいかないことがあるのは事実です。しかし徐々に分かってくると狙い所がはっきりして成績が上がります。

体を起こす大きな筋肉の束ですから、ボトックスの投与量も多めになります。欧米の医師向け指導書には片側だけで200単位の投与量が示されています。ただ100単位で効果が十分なこともあり、また不十分であったとしても有効性があることが判明しますので、当施設では100単位から開始することにしています。

ところがときどきまったく効かない人もいます。腰に痛みを感じていたとしてもそれは脳の中でそのように感じるように回路が出来上がる場合もあるとされています。

なお外国での二重盲検試験では、投与後3週間の時点で、プラセボ(偽薬)が16例中4例(25.0%)、ボツリヌスが15例中11例(73.3%) が有効であったと報告1)されています。

有効性がみられた場合には、3カ月以上効果が持続することが多いようです。痛みが減って筋肉をスムースに動かせるようになったことが関係しているものと考えられます。

〔文献〕
1) Foster L, Clapp L, Erickson M et al.:Botulinum toxin A and low back pain. Neurology 2001;56:1290-1293.

この記事を書いた人

寺本 純

1950年生まれ、名古屋大学医学部卒。しびれ、めまい、頭痛など外来の神経疾患を得意とする。著書『臨床頭痛学』(診断と治療社)は国内初の医学専門書で頭痛専門医の必携書となっている。片頭痛、郡発頭痛、肩こりの目立つ緊張型頭痛へのボツリヌス治療を国内最初に実施し、その治療成果を多くの学会、文献で報告している。さらにボツリヌスが末梢神経に作用する点に着目し、肩関節周囲炎や膝関節炎、花粉症にも国内で初めて応用し、優れた成績を医学報告している。現在は名古屋の寺本神経内科でボツリヌス治療を行っている。