ボツリヌス治療について

ボツリヌス治療は天然成分を使った注射治療

 ボツリヌス治療とは、ボツリヌス菌(食中毒の原因菌であり、自然界に存在する物質の中で生体に対する活性が非常に強い物質)が作り出す天然のたんぱく質を有効成分とした注射剤を使う治療法です。体の中にボツリヌス菌そのものが入ることはなく、ボツリヌス菌に感染する危険性はありません。

ボツリヌス治療は欧米では一般に普及

 ボツリヌス毒素は、筋肉の緊張を緩める・痛みを和らげる・分泌物を減らす、などの効果が知られ、欧米ではかなり普及しています。日本では、かなり限られた病気だけにしか保険治療が認められていません。現在保険で認められている病気以外にも多くの効用が認められています。当院ではこれらの保険適用以外のボツリヌス治療にはすでに12年以上の実績があります。

ボツリヌス治療は多くの疾患に有効

 ボツリヌス(ボトックス)は多くの運動系疾患、疼痛性疾患に有用性が証明されています。通常投与量での安全性は十分に証明されていますが、コピー商品が各国で作られており、アレルギーなどの問題を起こしています。当院では、アラガン社製造の純正のボトックスを使用しています。

ボツリヌス毒素の医療への応用と安全性

 ボツリヌス毒素とは、ボツリヌス菌が菌体へ放出する外毒素で、かつてはヨーロッパで加熱不十分なソーセージで増殖し死者をたくさん出したことで恐れられていた物質です。日本でも熊本の芥子蓮根事件やオウム心理教が製造していたことで知られています。
 しかしこれも微量で使用すると医学応用が出来、20世紀になって、アメリカのスコットという眼科医が斜視の治療に応用してからひろまってきました。
 現在日本では、眼瞼けいれん、片側顔面けいれん、痙性斜頸、脳卒中などによる痙縮に保険適用が認められて神経内科ではよく使用されています。一般の人たちには、顔面の筋肉を緩めてシワ伸ばしに応用されていることがよく知られています。

 ボトックス(商品名)の1バイアル(瓶)は、致死量の10万分の1とされてますが、もっもと神経質な説に準ずると、30バイアルを一気に呼吸器から吸うと死亡する可能性がある、としています。しかし、実はこれは安全と言える数値です。なぜならば、あっては困ることなのですが、強心剤や抗ガン剤を間違えて10倍使用したら患者が死亡したという事故がときどき紹介されます。このことは仮に10倍使用したとしても、なおかつ3倍のゆとりがあることを示しています。ですから名前に『毒』が入っていますが、安全性としては、多くの薬剤の中でも良好な方であり、かつ1バイアルごとに瓶が異なりますので間違えようがないのです。
 またそれ以外の別の問題としては、免疫ができると効かなくなってしまう、という問題があります。免疫ができてしまっては『毒』としての作用がなくなるからです。ですから投与量が多い場合には3カ月の間隔を置く必要性があるのです。
 また別の考えからみると、免疫ができる可能性がある、ということは微量ならば人体が対応できる物質であるということです。したがってこのことは肝障害などを生じることがないことも示しています。

この記事を書いた人

寺本 純

1950年生まれ、名古屋大学医学部卒。しびれ、めまい、頭痛など外来の神経疾患を得意とする。著書『臨床頭痛学』(診断と治療社)は国内初の医学専門書で頭痛専門医の必携書となっている。片頭痛、郡発頭痛、肩こりの目立つ緊張型頭痛へのボツリヌス治療を国内最初に実施し、その治療成果を多くの学会、文献で報告している。さらにボツリヌスが末梢神経に作用する点に着目し、肩関節周囲炎や膝関節炎、花粉症にも国内で初めて応用し、優れた成績を医学報告している。現在は名古屋の寺本神経内科でボツリヌス治療を行っている。