むちうち症(外傷性頸部症候群)のボツリヌス治療の概要と学術的根拠

むちうち症は、交通事故の後遺症として生じやすいことがよく知られていますが、コンタクトスポーツでも類似の現象はしばしば生じます。     

むちうち症は総称で、内容別にみると、頸椎捻挫、根症状、脊髄障害、さらに最近では脳脊髄液減少症を含めることもあります。病変が特定できない場合には、単に頸部挫傷とのみ病名付けすることもあります。

骨などの異常がみつからないような場合には、交通事故などの損害保険では、3カ月を治癒期間と定めています。

この期間を過ぎてから痛みを訴える場合には、賠償金目当ての疾病利得と考えられがちです。事実そのような不埒な『被害者』が存在することは事実ですが、必ずしもそうばかりとは思われません。筋肉に生じた筋線維絶裂、筋膜下出血は、たしかに治るのですが、その間に筋肉の異常収縮が定着して、5)で紹介したジストニアの現象が加わっていることがあります。

このような痛みに対して、Freundら1)は、ボトックスで改善することを報告しており、国内でも同様の成績が得られています2)。

心的影響もあるためなのか、完全には良くならなくても、半減します。またそれを契機にいずれ気にならなくなっていきます。

このような症状がある人は、医療機関での治療期間が過ぎると、マッサージ院などに通院することも多く、マッサージ師や柔整師などは、いつまで治療したらよいのか困っていることも多いようです。

きちんと診断すると、ジストニアなのか疾病利得にらる『仮病』なのかは分かります。鑑別点を述べるわけにはいきませんが、早く苦痛から脱却したい場合には、試みてみる治療法です。

〔文献〕
1)Freund BJ, Schwartz M: Treatment of whiplash associated withneck pain with botulimum toxin A: a pilot study. Rheumatol 2000;27:481-484.
2)寺本純: むちうち症に対するボツリヌス治療 日本頭痛学会誌 45:450 2018

この記事を書いた人

寺本 純

1950年生まれ、名古屋大学医学部卒。しびれ、めまい、頭痛など外来の神経疾患を得意とする。著書『臨床頭痛学』(診断と治療社)は国内初の医学専門書で頭痛専門医の必携書となっている。片頭痛、郡発頭痛、肩こりの目立つ緊張型頭痛へのボツリヌス治療を国内最初に実施し、その治療成果を多くの学会、文献で報告している。さらにボツリヌスが末梢神経に作用する点に着目し、肩関節周囲炎や膝関節炎、花粉症にも国内で初めて応用し、優れた成績を医学報告している。現在は名古屋の寺本神経内科でボツリヌス治療を行っている。