歯ぎしり・食いしばりのボツリヌス治療の概要と学術的根拠

歯ぎしりは顎の左右の動きによって音を発しますが、食いしばりは上下の噛みしめが強く音が出ないという差がありますが、基本的には共通です。食いしばりは非常に多い症状ですが、歯ぎしりのように家族などが気づかないので本人も意外にも自覚していないことが多いのです。夜間に出やすい症状なので、朝起きたときに顎のこり感、つかれ感があるので、それを観察点にするとよいでしょう。また昼間でもなにか一生懸命やっているときに、食いしばってしまっている人は、大半が夜間の食いしばりがあります。

症状が強いと歯を損傷したり、歯槽骨が変形することもあります。これらの現象は必ずしも顎の咬筋だけでなく、側頭筋なども関与する場合もあります。また食いしばりのある人の特徴は、大半が程度の差はあれ肩こりを伴っているということです。

外国では、有効性が証明1)されており、主に歯科医が実施していますが、日本では歯科医が実施することも可能ですが、医師法との兼ね合いがあること、また神経学的な知識が必要なことから、かなり限られた歯科医が実施しているに過ぎません。美容系ではえら張りの治療として実施しており、治療法として共通部分もありますが、患者さんの目的とする視点が美容と食いしばりとは異なるところから、価値観などに大きな差がありますから、 寺本神経内科クリニックでは食いしばりをターゲットにしています。

なお非常にまれなケースとして咬筋ジストニアというやっかいな病気があります。これは昼間でも、回りにはっきり聞こえるほどの歯ぎしりを繰り返す現象です。通常の食いしばりの3~4倍のボトックスが必要ですが、なんとか対処できる程度の技術に至ったと思いますので、まだ国内で対処できる施設はありませんので、ご利用ください。

〔文献〕
1) Lee SJ, McCall WD jr, Kim YK: Effect of botulinum toxin injection on noctural braxism: a randomized controlled trial. Am J Phys Med Rehabil 2010;89:16-23
2) 寺本純: 歯ぎしりに伴う頭痛に対するボツリヌス治療 日本頭痛学会誌 40:407 2013

この記事を書いた人

寺本 純

1950年生まれ、名古屋大学医学部卒。しびれ、めまい、頭痛など外来の神経疾患を得意とする。著書『臨床頭痛学』(診断と治療社)は国内初の医学専門書で頭痛専門医の必携書となっている。片頭痛、郡発頭痛、肩こりの目立つ緊張型頭痛へのボツリヌス治療を国内最初に実施し、その治療成果を多くの学会、文献で報告している。さらにボツリヌスが末梢神経に作用する点に着目し、肩関節周囲炎や膝関節炎、花粉症にも国内で初めて応用し、優れた成績を医学報告している。現在は名古屋の寺本神経内科でボツリヌス治療を行っている。