CRPS (複合性局所疼痛症候群)のボツリヌス治療の概要と学術的根拠

古くはカウザルギーと呼ばれていたが、交感神経の関与が予測されたことから、RSD(反射性交感神経性萎縮症) と呼称されていた。1994年に国際疼痛学会によってCRPSと命名されました。

1型と2 型に分けられており、1 型は神経損傷がないもの、2 型はあるものとされています。症状の中心は痛みであり、1,2 型を問わず、損傷の程度に比較して相応と考えられる以上の痛みが存在することです。それ以外に皮膚・皮下組織の萎縮、発汗や発毛の異常などを伴います。程度の差はさまざまであるが、軽い場合には痛み以外ははっきりしないこともあります。軽いと言っても痛みとしては弱いわけではありません。

1 型は注射、手術、骨折などのあとに発生します。この中でも多いのは手術部の瘢痕の痛みです。経過とともに自然改善していくこともありますが、長年にわたって疼きが続き、経過中に他の自律神経症状も明確化してくることがあります。

また歯科の抜歯後、いつまでも続く痛みで歯科医がクレームに悩むことが多いようです。統計ははっきりしたものはありませんが、多くの歯科医が経験するので、かなり多いと予測されます。

通常の治療には反応せず、国内では適切な治療法は明示されていませんが、外国では疼痛部位にボツリヌス剤を注射することがあります1)。痛みは完全に消失しませんが、半減するので、一気に精神的苦痛から解放されます。半年以上効果が持続するとされています。

筆者の経験では皮膚では1 型、他に抜歯後痛(2型) を経験していますが、20単位程度の局所注射で全例で効果を確認しました。その後は自然に消失していく例もありますが、反復投与するほどの症例にはまだ出くわしていません。

痛みを放置していると周辺の症状のみならず、辺縁系~基底核を介して、ジストニアとなって運動系へ症状が広がる可能性(van Rijn MAほか 2007)がありますので、ボツリヌス治療で早めに対応しておくことをお勧めしたいと思います。

〔文献〕
1)Kharkar S, Ambady P,, Venkatesh Y et al. Intramuscular botulinum toxin in complex regional pain syndrome: Case series and literature review.
Pain Physician 2011; 14:419-424.

この記事を書いた人

寺本 純

1950年生まれ、名古屋大学医学部卒。しびれ、めまい、頭痛など外来の神経疾患を得意とする。著書『臨床頭痛学』(診断と治療社)は国内初の医学専門書で頭痛専門医の必携書となっている。片頭痛、郡発頭痛、肩こりの目立つ緊張型頭痛へのボツリヌス治療を国内最初に実施し、その治療成果を多くの学会、文献で報告している。さらにボツリヌスが末梢神経に作用する点に着目し、肩関節周囲炎や膝関節炎、花粉症にも国内で初めて応用し、優れた成績を医学報告している。現在は名古屋の寺本神経内科でボツリヌス治療を行っている。