慢性片頭痛のボツリヌス治療の概要とその学術的根拠

さて、通常の片頭痛に対して、トリプタン系の薬剤が頓用され、有効性は高いのですが、20% くらいの人は徐々に使用量が増えてきます。連用して頭痛頻度を減らす治療(予防薬)もありますが、トリプタン投与が10回/以上になると予防薬は効きません。この状態を慢性片頭痛と呼びます。国内では薬物乱用頭痛との診断名がよく用いられています。

この状態になると、頭痛発作の回数が多いだけでなく、頭痛発作ではないときにも持続性の頭痛が消えないようになってしまいます。特にトリプタンを使用するとこの状態になりやすいのですが、市販薬などの鎮痛薬でも同じ現象に陥ります。この慢性片頭痛から、離脱・脱却できることが証明されているのは、ボツリヌス治療のみです。それ以外の方法では、一時的にいくらか改善する場合はありますが、基本的には一生頭痛が続くことになります。

2010年にPREEMPT study1) が欧米で同時に実施され、ボトックスの投与量は165 ~195単位で、結果的に3 カ月ごとに5 回 (1 年間) 反復投与で、当初、強い頭痛が20回/ 月であったのが1 年後には8.2 回/ 月までに減少し、乱用からの脱却に成功しました。10回以内ならトリプタンや鎮痛薬が安心して使える状態に戻ります。日本ではこの臨床試験を製薬会社が申し出ましたが、日本頭痛学会が関心を示さず、保険導入が閉だされる結果になりました (この顛末は別記します) 。

寺本神経内科クリニックではこの治療を実施していますが、中には2 年前後を要する人もいますが、大多数は100 単位以内で十分に同等以上の効果が見られます。

ボトックスは、成分が同一でラベルだけ異なる保険用と非保険用が国内で発売されており、価格差と投与量の関係から、もし保険適用になった場合に比較して、投与技術さえあれば自由診療の方が低額になるという、皮肉な結果になりました。

脱却後は、また頭痛が増えてきたら不定期 (半年~1 年くらい毎) に施注すれば、その状態が維持されます。

〔文献〕
1)Aurora SK, Winner P, Marshall C et al.:Onabotulinumtoxin A for treatment of chronic migraine:Pooled analysis of the 56-week PREEMPT clinical program. Headache 51;1358-1373 2011.

この記事を書いた人

寺本 純

1950年生まれ、名古屋大学医学部卒。しびれ、めまい、頭痛など外来の神経疾患を得意とする。著書『臨床頭痛学』(診断と治療社)は国内初の医学専門書で頭痛専門医の必携書となっている。片頭痛、郡発頭痛、肩こりの目立つ緊張型頭痛へのボツリヌス治療を国内最初に実施し、その治療成果を多くの学会、文献で報告している。さらにボツリヌスが末梢神経に作用する点に着目し、肩関節周囲炎や膝関節炎、花粉症にも国内で初めて応用し、優れた成績を医学報告している。現在は名古屋の寺本神経内科でボツリヌス治療を行っている。