歯科検診の義務化とその利用法

2023年から国民皆歯科検診が義務化されます。これは認知症対策が最大の課題であり、認知症の患者では歯を失っている率が高いという現実から、将来的な介護費用の抑制を考慮した結果の措置ということができます。

歯が少ないと認知症になるのか

認知症で歯が少ない人が多いのは現実です。しかし厳密な意味では歯が少ないから認知症になるのか、あるいは認知症になる人では歯も少ないのかなど、科学的には検討の余地があるのですが、実際にはそういう現実があるということを受け止め、それなりに対応していくことに意義があると予測されますので、皆検診を契機として、その対応策を考えておく必要がありそうです。

歯を失うのは歯周病が圧倒的

歯周病の名前はよく知られていましたが、これが進行して徐々に歯が障害されます。口腔内の清潔維持が説かれ、テレビのコマーシャルなどでも、推奨されています。

歯ぎしり・食いしばりは歯周病の悪化因子

睡眠中にギリギリと音が出る歯ぎしりは有名で、本人より家族などが早めに気づきます。また、食いしばり(噛みしめ)は、歯ぎしりより圧倒的に多いのですが、周囲に気づかれないこと、また本人は、朝起きたときなどの顎のだるさ(顎こりという人もある)で気づくことがありますが、中にはまったく気づくことがなく、歯科の検診によって歯が傷んだり、歯を支えている歯槽骨の変化などを指摘され、初めて知ることも少なくありません。

食いしばりは病名として筋性顎関節症などと呼ばれることがあり、結果的に顎関節の可動域制限をきたすこともありますが、むしろそうなることは必ずしも多くありませんが、歯の上下への強い圧迫によって歯周病を悪化させる最大の要因となります。

いままでの食いしばりの治療

もっとも普及しているのは、歯科でマウスピースを処方してもらうことです。欧米では、顎を上下に動かす咬筋などへボツリヌス剤を注射し、筋力を緩める治療法が広く実施されています。

日本では、このボツリヌス治療は大幅に遅れており、医師では以外では、咬筋肥大症として実施している美容系のみです。歯科医師でも一部は実施していますが、世界でもっとも汎用性が高いボツリヌス剤の主流であるボトックス(r)が個人輸入でしか入手不能なこともあります。また一部の歯科では、韓国製のボツリヌス剤が使用されています。

食いしばり治療の成績と予後

ボツリヌス治療を実施すると食いしばりが軽減します。しかし薬剤の効果が落ちてくることから約3カ月後に再度注射投与が必要になります。数回これを繰り返します、大半の人では、その投与間隔が半年~1年と自然に延びてきます。

たいていはそれでよいのですが、なにかストレスが加わったりすると再度、悪化することもありますが、こういった場合にはたいてい1回の再投与で済むようです。また食いしばりの出現率は年齢が高くなると低下してきますのでその点では安心です。

食いしばり治療の将来

歯周病を減らす意味では必須の治療法ですが、現状ではマスウピースしかないという心もとない状況です。重要な点は歯科で、ボツリヌス治療か受けられる環境を作ることです。咬筋以外の筋肉、例えば後頸筋群が関連する場合も多くありますから、医師法との関係で歯科で対処できる範囲が限られているという問題があります。また医科の方でも対応可能な施設は極端に少ないという実情があり、折角の国民皆歯科検診の制度をうまく活用するためには、多くの努力と時間が必要である、というのが実感です。

食いしばり治療の技術習得

美容系で『咬筋肥大症』の治療目的で、ボツリヌス剤が使用される場合があり、その技術指導などが一部で実施されています。食いしばりの治療と、一見よく似ていますが、目的性に違いがあるところから、歯科医の評価を含めて長期的対応が必要になるなど、一律の治療というわけにはいきません。将来に向けて、この治療技術の習得の意向がある医師、歯科医師に対しては、実地講習会などの対応を考えています。

この記事を書いた人

寺本 純

1950年生まれ、名古屋大学医学部卒。しびれ、めまい、頭痛など外来の神経疾患を得意とする。著書『臨床頭痛学』(診断と治療社)は国内初の医学専門書で頭痛専門医の必携書となっている。片頭痛、郡発頭痛、肩こりの目立つ緊張型頭痛へのボツリヌス治療を国内最初に実施し、その治療成果を多くの学会、文献で報告している。さらにボツリヌスが末梢神経に作用する点に着目し、肩関節周囲炎や膝関節炎、花粉症にも国内で初めて応用し、優れた成績を医学報告している。現在は名古屋の寺本神経内科でボツリヌス治療を行っている。