抗CGRP剤について

片頭痛が発生する際に血管拡張を惹起する過程で、CGRPという物質が関与します。

このCGRPやその受容体を抑制する薬剤で、それらに対する抗体です。

いままで大半の片頭痛薬は、偶然の切っ掛けが開発のベースになっていたのに対し、これは純粋に脳科学から発展してきたものですから、基礎医学の立場からは期待されています。現在では複数社が競い合っています。

2021年4月に最初の商品名エルガルティが発売になりましたので、概要について情報を提供します。

投与対象は、頭痛発作が5~14回/月の頻度が多い片頭痛です。薬剤は注射で最初は240mgで、あとは毎月120mgの注射です。発売前データでは大体月当たり4回程度の片頭痛が減ると述べられています。累積効果はなく、毎月反復注射が必要です。自宅での投与も可能になります。

頭痛学会にとっては期待が大きい薬剤ですが、冷静に諸問題について述べますので記憶に止めておいてください。

因みに、ここで述べておきますが、先進国では頭痛の抑制にはトリプタン、予防にはボツリヌスが治療の主流として固定しています。

1)有効性への納得は?

平均4回/月片頭痛発作が減るとしても、元来5~6回/月だった人には意義がありますが、13~14回/月だった人には力不足に感じられるのではないでょしうか。4~5回の人なら、トリプタンなどでこと足りるところから頻度の多い人に処方が傾くでしょう。有効ということはできても有益というには、もの足らないと思います。

2)累積性がないこと  

ボツリヌスには累積効果があり、だいたい投与の度に効力が累積されてきます。これに対し抗CGRP剤には累積効果がなく、効能書にはもちろん言及されていませんが、半年くらいたつと効果が低下するグラフも示されています。

3)中和抗体の比率が高い

抗体薬であるところから、それに対する抗体が体内に産生されます。この産生立は6カ月で7.8%、18カ月で15.5% であったと記載され、抗体価は低かったとされています。しかし長引けば増加することか予測され、そうなれば薬効が無効化する可能性があります。若い時に発症し、老年期になって自然改善する片頭痛を追跡するには、難点があります。

4)アナフィラキシーや過敏症反応の可能性

抗体であるところから、アナフィラキシーや過敏症反応の可能性があります。これは初期投与のみではありませんから、これに対する心配は続きます。

5)価格が高い

医学的な問題に価格を先に考えるべきでないのですが、今回の薬剤は薬剤費だけでみると120mgが約45,000円です。最初の3カ月は、計4本ですから約180,000円です。保険で30%負担で54,000円となります。継続で月に1本ずつなら135,000円で、自己負担は40,500円です。

これに対し、純正のボツリヌス剤では、投与は3カ月に1回で、かつ一定のスキルがある医師が実施すれば薬剤費は自費で100%患者負担でもこれより低額になります。1年くらいして落ちつけば投与間隔は半年に1回くらいに延びていきます。

6)投与医師限定による弊害

抗CGRP剤は医薬品リスク管理計画対象製品のため、頭痛学会ほかいくつかの学会の認定医しか使用できません。これを盾にして、他の施設へ行くときちんとした治療が受けられないぞ、効いていなくても脅しまがいの受診を強要することが多くなるでしょう。

もちろんこの薬剤の力量と立ち位置によっては使用価値を感じますが、私も認定医として使用はできるのですが、ボツリヌスの技術を有しており、自由診療対応ができますから、当面この薬剤を使用する予定はありません。

昨年から、英国では慢性片頭痛に対してボツリヌス治療が無償実施となりました。抗CGRPは発売されていましたから、それが評価なのでしょう。また市場の動向から抗CGRP剤は、発売直後には一定の伸びがあったのが翌年にはその実績が低下してしまったとの情報を聞きました。この薬剤は、あればあったで必要ですが、補助的な役割となるでしょう。

しかし、なんらかの政治的事情にてボツリヌスの臨床試験を断念に追いやり、医学情報すら隠匿している日本頭痛学会はこの抗CGRPにすがり、過剰であった、誤った使用をする可能性が大きいと思います。

一番の問題は患者さんの評価です。効いたら儲けものですが、あまり効かなかった場合には、はっきりと効かない点を担当医師に述べてください。

なお日本では秘匿されていますが、インターネットでmigraine( 片頭痛) とbotox(ボツリヌス剤の商品名) を入力すると、外国での成績や情報が簡単にたくさん得られます。時間のあるかた、簡単な英語が分かるかたはご覧になってください。

この記事を書いた人

寺本 純

1950年生まれ、名古屋大学医学部卒。しびれ、めまい、頭痛など外来の神経疾患を得意とする。著書『臨床頭痛学』(診断と治療社)は国内初の医学専門書で頭痛専門医の必携書となっている。片頭痛、郡発頭痛、肩こりの目立つ緊張型頭痛へのボツリヌス治療を国内最初に実施し、その治療成果を多くの学会、文献で報告している。さらにボツリヌスが末梢神経に作用する点に着目し、肩関節周囲炎や膝関節炎、花粉症にも国内で初めて応用し、優れた成績を医学報告している。現在は名古屋の寺本神経内科でボツリヌス治療を行っている。