各種の関節痛のボツリヌス治療の概要と学術的根拠

各種の関節の痛みに対してボツリヌス剤が有用であると米国で報告され、広範に普及したわけではありませんが、現実的には臨床現場ではよく使用されていると聞きます。

Mahowaldら1)は、肩関節周囲炎(五十肩)と膝関節炎についての成績を報告している。100 単位を使用した結果、肩関節では著明に痛みが低下し、膝関節では痛みの点数が48%低下したと示しています。

根本的には、肩関節周囲炎は、大多数がいずれ自然改善するものであり、一方侈膝関節炎では、加齢や酷使による退行性変化であるところから根本的には治癒しませんで、疾患の特性として別ものであることを理解しておく必要があるだろう。

しかしいずれにしても関節腔内へ投与することは共通です。作用部位は関節絨毛などの神経終末器管、自由神経終末などではないかと考えられています。

また動物実験では関節腔内へのボツリヌス投与で瘢痕組織の増加を抑制したり、軟骨の磨耗を抑制する作用が報告されており、ヒトでは逆ということも考えにくいので、安心できる情報と言えるでしょう。

筆者も投与経験と報告2)を行ったが、一定の効果は認められました。しかし有効率は50%くらいの印象です。筋肉への効果ではなく感覚神経への効果のみだからです。

外国では、高度のリウマチ性関節炎でも有効があるとの報告があります。最近膝などの関節の手術は普及しましたが、手術を希望しない患者や長く痛みが続いているという場合には一考しておく価値のある治療法と考えます。

〔文献〕
1) Mahowald ML, Krug HE, Singh JA et al.:Intra-articular Botulinum toxin A : a new approach to treat artheritis joint pain. Toxicol 2009;54:658-667. 2)寺本純: 関節炎に対するA型ボツリヌス毒素による治療効果
新薬と臨床59:1231-1235 2009

この記事を書いた人

寺本 純

1950年生まれ、名古屋大学医学部卒。しびれ、めまい、頭痛など外来の神経疾患を得意とする。著書『臨床頭痛学』(診断と治療社)は国内初の医学専門書で頭痛専門医の必携書となっている。片頭痛、郡発頭痛、肩こりの目立つ緊張型頭痛へのボツリヌス治療を国内最初に実施し、その治療成果を多くの学会、文献で報告している。さらにボツリヌスが末梢神経に作用する点に着目し、肩関節周囲炎や膝関節炎、花粉症にも国内で初めて応用し、優れた成績を医学報告している。現在は名古屋の寺本神経内科でボツリヌス治療を行っている。